
サイト制作の著作権と素材の使用範囲|契約で確認する5項目
「サイトのトップに載っているあの写真、今度のチラシにも使いたいんだけど」。 営業の人からそう言われて、「あ、いいですよ」と答えかけて、ふと手が止まる。あの写真、うちが撮ったものだっけ。制作会社が用意してくれたやつだったかもしれない。じゃあ、勝手に使っていいんだろうか——。
その迷いは、確認を怠っていたからではありません。サイトに使われている素材は出どころがバラバラで、それぞれ「どこまで使っていいか」の線引きが違うからです。公開してしまえば全部ひとかたまりに見えるので、あとから分からなくなるのが普通です。今日は、その線引きを一緒にほどいていきましょう。法律にくわしくなくても大丈夫です。分け方さえ分かれば、確認すべき場所ははっきりします。
結論:サイトの素材は「①制作物(制作会社が作ったもの)②購入素材(ストックサイトなどで買った写真・イラスト)③自社素材(自社で撮影・用意したもの)」の3つに分けて考えます。
そのうえで契約時に確認したいのは5項目——①サイト本体(デザイン・コード)→ ②写真・イラストの購入素材 → ③撮影した写真と写っている人 → ④フォント → ⑤地図・第三者の素材。
すでに公開済みのサイトでも遅くありません。制作会社に「使用素材の一覧」を頼めば、あとからでも整理できます。
何が起きているのか
まず知っておくと気持ちが楽になることがあります。著作権は、作った人に自動的に発生します(著作権法第17条)。登録も手続きもいりません。つまり、制作会社に依頼して作ってもらったデザインやイラストの著作権は、契約でとくに定めなければ、作った側に残ったままなのです。
これは、制作会社が権利を抱え込もうとしているという話ではありません。法律の初期設定がそうなっているだけです。だから、あとから「お金を払ったのに」と感じる必要はまったくありません。必要なのは、自分たちが何をどこまでしたいのかを、契約の言葉にしておくことです。
そのうえで、サイトに載っているものを3つに分けてみます。

- 制作物:制作会社が作ったデザイン、イラスト、コード、ロゴなど。→ 権利は原則、作った側。契約で扱いを決める。
- 購入素材:ストックフォトサイトなどで買った写真・イラスト。→ 権利は素材の作者。買ったのは「決められた範囲で使う許可」。
- 自社素材:自社で撮った写真、社内で作った図、自社で書いた文章。→ 権利は自社。ただし写っている人への配慮は別に必要。
分かりにくさの正体は、この3つが1枚のページに混ざっていることです。逆に言えば、「これはどの箱のものか」を1つずつ振り分けるだけで、確認すべき相手が決まります。
なお、ここで大事なのは「全部の権利を自社に移してもらうのが正解」ではない、ということです。著作権をまるごと譲り受けようとすると、制作会社側の見積もりが上がることがよくあります。実務で本当に必要なのは、たいていの場合、次の3つが担保されていることです。
- 自社サイトで使い続けられること
- 自分たちや別の会社が手を入れて改修できること
- 会社案内やチラシなど、他の媒体にも使えること(必要なら)
この3つが契約に書かれていれば、権利が制作会社に残っていても困りません。「譲渡してもらう」か「必要な範囲の使用許可をもらう」か、目的から選べばいいのです。
依頼のしかたそのものを整理したいときは、制作会社への見積もり依頼とRFPの作り方もあわせてどうぞ。
契約で確認する5項目
一度に全部を調べようとしなくて大丈夫です。上から順に、分かるところから埋めていきましょう。
1. サイト本体(デザイン・コード)の扱い
契約書の「著作権」「知的財産権」という見出しを探します。だいたい次のどちらかの書き方になっています。
- 譲渡型:「本件成果物の著作権を甲(発注者)に譲渡する」。このとき、「著作権法第27条および第28条の権利を含む」と書かれているかを見てください。この一文がないと、あとから作り替える権利(翻案権など)は制作会社に残ったままと推定されます(著作権法第61条第2項)。将来のリニューアルで効いてくる部分です。
- 許諾型:「甲は本件成果物を自社ウェブサイトにおいて利用できる」。この場合は、利用できる範囲・期間・改変の可否を確認します。「改変してよい」「第三者(別の制作会社)に委託して改変させてよい」が入っていると、乗り換えのときに困りません。
あわせて、著作者人格権についての記載も見ておきます。著作者人格権は法律上ゆずれない権利(著作権法第59条)なので、実務では「著作者人格権を行使しない」という一文を入れて、公表のしかたや改変で揉めないようにするのが一般的です。
2. 写真・イラストなどの購入素材
ここがいちばん、冒頭の「チラシにも使いたい」に直結する部分です。
ストックフォトサイト(PIXTA、Adobe Stock、Shutterstock、iStock など)の素材は、買った人のアカウントに使用許可がひもづきます。制作会社が自社のアカウントで買った素材を、あなたの会社のサイトに使うところまでは、多くのサービスで「成果物に組み込む」形として認められています。けれど、その写真データを受け取って、自社が別のチラシやSNS投稿に使い回してよいかは別の話です。ここは各サービスの規約で条件が違います。
だから確認したいのは、次の3つです。
- 使った素材の一覧(どのサイトの、どの素材か)をもらえるか
- 自社が他の媒体でも使える条件になっているか(必要なら、その分のライセンスを買ってもらう/自社で買い直す)
- 素材を自社アカウントで買い直せるよう、素材のIDやURLが分かるか
「一覧をください」と頼むこと自体は、まったく失礼ではありません。制作会社にとってもよくある依頼です。
3. 撮影した写真と、写っている人
カメラマンに撮ってもらった写真は、撮影者に著作権があります。撮影費を払っていても、契約で「Web媒体のみ」「掲載は3年間」といった範囲が決まっていることがあります。パンフレットや採用サイトへの転用を考えているなら、発注のときに使いたい媒体を伝えておくのがいちばんスムーズです。
もうひとつ、著作権とは別に写っている人への配慮があります。社員、お客様、取引先。撮影のときに「サイトに載せること」の同意をもらっているか。そして、社員が退職したあとの写真をどうするか。ここは法律というより、気持ちよく働くための運用の話です。同意書やメールでのやりとりを、写真データと同じ場所に保管しておくと、あとで探さずに済みます。
採用ページの写真を差し替えるタイミングについては、採用・求人情報を古いまま放置しない更新運用でも触れています。
4. フォント
見落とされやすいのがフォントです。サイトの文字を何で表示しているかによって、扱いが変わります。
- Google Fonts など、オープンソースのライセンス(SIL Open Font License など)で配布されているフォント:商用利用も含めて自由に使えるものが多く、あまり心配はいりません。
- Adobe Fonts:Adobeのアカウント契約にひもづいて配信されます。制作会社の契約で設定されている場合、その契約が終わると表示が変わる可能性があります。誰の契約で使っているかを確認しておくと安心です。
- 日本語の有料フォント(モリサワ、フォントワークス など):Webフォントとして使うには別途ライセンス契約が必要なことが一般的です。こちらも契約の名義を確認します。
それから、ロゴやバナーの画像に埋め込まれた文字にもフォントのライセンス範囲があります。「このバナーの文字と同じ書体で、自分たちで新しいバナーを作りたい」と思ったときに関わってくるので、頭の片隅に置いておくとよい部分です。
5. 地図・第三者の素材
最後に、外から持ってきているものです。
- 地図:Googleマップは、公式の埋め込み機能を使うのが基本です。地図の画面をスクリーンショットして画像として貼るのは、規約や権利の面で注意が必要とされている使い方なので、埋め込みに置き換えるほうが安全です。印刷物にも使いたいなら、国土地理院の地理院地図など、出典を明示すれば利用できる地図を検討する方法もあります。
- 他社サイトの文章・画像:参考にするのは自由ですが、そのまま持ってくることはできません。引用として使う場合も、出どころを示し、自分の文章が主で引用が従、という関係になっている必要があります。
- 生成AIで作った画像・文章:使う場合は、利用しているサービスの規約と、商用利用の条件を確認します。制作会社がAI生成の素材を使っているかどうかも、聞いておくと後々の判断がしやすくなります。この分野は各サービスの規約が変わりやすいので、その時点の公式情報で確認するのが確実です。
具体例:制作会社に送る依頼メール
もう公開してしまったサイトでも、これから確認できます。難しい言い回しはいりません。こんな一通で十分です。
件名:サイトで使用している素材の一覧について
いつもお世話になっております。〇〇株式会社の△△です。
社内で会社案内やチラシの制作を検討しており、サイトに掲載している写真の一部を転用できないか確認しています。
つきましては、恐れ入りますが下記についてお教えいただけますでしょうか。
1. サイトで使用している購入素材(写真・イラスト)の一覧と、購入元のサービス名
2. 上記のうち、弊社が他媒体(印刷物・SNSなど)でも使用できるもの・できないもの
3. 使用しているWebフォントと、その契約の名義
4. 撮影いただいた写真がある場合、使用できる媒体と期間
お手すきのときで構いませんので、よろしくお願いいたします。
ポイントは、「権利はどうなっているんですか」ではなく「これがしたいので、できるか教えてください」と聞くことです。目的が分かると、制作会社も答えやすくなります。「この写真だけ、追加でライセンスを買っておきますね」と、その場で解決することも珍しくありません。
回答が返ってきたら、素材一覧をそのまま社内の共有フォルダに置いておきましょう。次に誰かが「これ使える?」と聞いてきたときに、探さずに答えられます。引き継ぎ資料に入れておく手もあります(担当が変わっても回る引き継ぎ資料の整え方)。
あなたへの影響
- 「この写真、他にも使える?」と聞かれたときに、その場で答えられるようになる。
- リニューアルや制作会社の乗り換えのときに、どの素材を持っていけるかが分かっているので、作業がスムーズになる。
- 「使っていいか分からない」という理由で、社内の企画が止まらなくなる。
- 万一「その画像は」と外部から指摘があっても、出どころが分かっていれば落ち着いて対応できる。
- 次の発注のときに、必要な範囲だけを契約に書けるので、余計な費用をかけずに済む。
明日やること
- 契約書・発注書・当時のメールから、「著作権」または「知的財産権」の条項を探して読む(1か所見つかれば今日は十分です)。
- 見つからない、または内容が分からなければ、上のテンプレを使って素材一覧の依頼メールを1通送る。
- いま社内で「他でも使いたい」と言われている写真を1枚だけ選び、その1枚の出どころを確かめる。
- 自社で撮った写真と、掲載の同意をもらったやりとりが、どこに保管されているかを確認する。
チェックリスト
全部を今日そろえる必要はありません。まずは「素材の一覧がある」ことと「自社サイトで使い続けられる」ことの2つが確認できれば、日々の運用で困ることはほとんどありません。
これだけは(最低ライン)
- サイトを自社で使い続けられることが、契約書またはメールで確認できる
- サイトで使っている購入素材の一覧(または問い合わせ先)が手元にある
できれば(安心して運用できる順)
- 成果物の著作権が「譲渡」か「使用許諾」か、どちらの形か把握している
- 自社や別の会社が改変・改修してよいことが契約に書かれている
- 写真・イラストを他の媒体に転用してよいかを素材ごとに確認した
- 使っているWebフォントと、その契約の名義(自社か制作会社か)が分かる
- 撮影写真の使用できる媒体と期間を確認した
- 人物写真について、掲載の同意のやりとりが保管されている
- 地図はGoogleマップの公式の埋め込み機能を使っている
契約・リニューアルのときだけ
- 譲渡の条項に「著作権法第27条および第28条の権利を含む」と書かれている
- 著作者人格権を行使しない旨の一文がある
- 今回の制作で使う素材の一覧を、納品物に含めてもらうよう依頼した
- 転用したい媒体(印刷物・SNS・展示会など)を、発注時に伝えてある

よくある不安に、先に答えておきます
- 「今さら聞いたら、疑っているみたいで気まずい」:まったく問題ありません。担当者の代替わりはどの会社でもあることですし、制作会社側も素材の管理は日常業務です。「新しく作りたいものがあるので」と目的を先に伝えれば、前向きな相談として受け取ってもらえます。
- 「著作権は全部こちらに移してもらったほうがいいの?」:必ずしもそうとは限りません。全部の譲渡を求めると、その分の費用が見積もりに乗ることがあります。自社サイトで使い続けられる/改修できる/必要な媒体で使える——この3つが押さえられていれば、実務は十分に回ります。
- 「もう何年も前のサイトで、当時の資料が見つからない」:契約書がなくても、当時のメールや請求書から糸口が見つかることがあります。それも難しければ、制作会社に現状を正直に伝えて聞くのが早道です。分からないままにしておくより、聞いてしまったほうが気持ちも軽くなります。
- 「制作会社と連絡がつかない」:まずは、いま手元にあるデータ(画像ファイル、サーバー内のファイル)を確認して、素材の出どころが特定できるものから整理します。特定できない写真は、転用を急がず、必要なときに自社で買い直すか撮り直すのが確実です。あわせて制作会社を乗り換えるときの準備も参考にしてください。
締めに
素材の権利の話は、身構えると難しく感じます。 でも、やることは意外とシンプルです。「これはどこから来たものか」を1つずつ確かめる。それだけです。
全部を今日きれいにする必要はありません。今日の1枚、今週の一覧。そうやって少しずつ輪郭がはっきりしていけば、「これ使える?」に迷わず答えられる日がきます。
そしてこれは、後任の担当者への贈り物にもなります。あなたが今日つくった素材の一覧は、いつか誰かの「分からない」を1つ減らしてくれます。
※本記事は一般的な実務の考え方をまとめたものです。個別の契約の解釈や、実際に権利上の問題が生じている場合の判断は、契約書の文言と、必要に応じて弁護士など専門家にご確認ください。
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